親が元気なうちに確認しておくこと|5つのテーマと聞き方
更新日:2026-07-25|読了目安:約9分|運営:サトコト合同会社

「まだ元気だから、その話はしなくていい」。そう思っているうちに選択肢が減っていくのが、親のこれからの難しいところです。判断力が下がってから使える制度は限られ、費用も自由度も変わります。この記事では、親が元気なうちに確認しておきたい5つのテーマと、切り出しにくい話の始め方を、公的な統計と制度の出典つきで整理します。全部を一度にやる必要はありません。今日できるのは1つで十分です。
なぜ「元気なうち」なのか
認知症高齢者数は2022年時点で443.2万人(有病率12.3%)と推計され、2030年には523.1万人(14.2%)、2040年には584.2万人に増加すると推計されています(厚生労働省の将来推計)。年齢階級別の有病率は85〜89歳で32.8%、90歳以上で50.3%と、加齢に伴い急上昇します。誰にでも起こりうることとして、備えの話を先にしておく意味があります。
判断力が下がってから財産の管理をする方法として成年後見制度がありますが、利用者数は令和7年12月末時点で259,901人です。このうち、本人が元気なうちに公正証書で受任者を指定しておく「任意後見」の利用者は2,833人と、全体の約1%にとどまります。令和7年に新たに選任された成年後見人等のうち親族は16.4%で、83.6%は司法書士・弁護士・社会福祉士などの親族以外です。専門職が後見人になった場合の報酬のめやすは基本報酬で月額2万円、管理財産が1,000万円超〜5,000万円以下で月額3〜4万円、5,000万円超で月額5〜6万円とされ、本人が亡くなるまで継続的に発生します(東京家庭裁判所の公表めやす)。
確認しておくこと① お金の置き場所(金額ではなく「どこにあるか」)
最初に確認したいのは、いくらあるかではなく、どこにあるかです。取引のある金融機関、加入している保険、年金の受取口座。これが分からないままだと、介護が始まったときの支払いも、相続の手続きも進みません。成年後見の申立ての動機は「預貯金等の管理・解約」が最多で、終局した事件の93.4%で動機に挙げられています(令和7年)。お金が動かせなくなることが、家族が困る最大の局面だということです。
切り出しにくい場合は、金額を聞くのをやめて「もしものときに困らないように、どこの銀行を使っているかだけ教えてほしい」と範囲を絞るのが現実的です。エンディングノートや、通帳の一覧をメモしてもらうだけでも状況は変わります。
確認しておくこと② 実家の名義(相続登記は義務化されている)
実家の登記名義が誰になっているかを確認してください。祖父母の名義のままになっているケースは珍しくありません。実際、登記簿だけでは所有者の所在が確認できない「所有者不明土地」は国土交通省の令和6年調査ベースで約23%にのぼり、その発生原因の63%が相続登記の未了です(法務省民事局・令和8年4月版)。相続登記は2024年4月1日から申請が義務化され、相続で不動産を取得したことを知った日から3年以内に登記しないと、正当な理由がない限り10万円以下の過料の対象になります(法務省)。2024年4月1日より前に相続した未登記の不動産も義務化の対象で、令和9年(2027年)3月31日までに登記が必要です。
分け方が決まらず登記できない場合でも、相続人申告登記という方法があります。相続人が単独で(他の相続人の関与なく)法務局に申し出るだけで、申出人については相続登記の申請義務を履行したものとみなされます(法務省)。まず過料を避けるための手段として用意されている制度です。
空き家そのものも増え続けています。2023年10月1日時点の空き家数は900万2千戸・空き家率13.8%で、いずれも過去最高です。このうち、賃貸・売却用等を除く放置リスクの高い「その他空き家」は385万6千戸で、総住宅数の5.9%を占めます(総務省統計局)。
確認しておくこと③ 医療と介護の希望(そして地域包括支援センターの場所)
どこで暮らしたいか、延命治療をどうしたいか。答えが出なくても、話題に出したこと自体が後で効きます。あわせて確認しておきたいのが、親の住む地域の地域包括支援センターです。市町村が設置主体で、高齢者の総合相談・権利擁護・介護予防の援助等を無料で行う中核機関であり、令和7年4月末現在で全国5,487か所(ブランチ・支所を含めると7,374か所)設置されています。「(親の住む市区町村名) 地域包括支援センター」で検索すれば見つかります。
介護は突然始まることが多い出来事です。令和6年中の救急搬送人員676万9,172人(過去最多)のうち65歳以上の高齢者は428万4,953人で63.3%を占め、75歳以上だけで全搬送の49.7%に達します(総務省消防庁)。65歳以上の「転倒・転落・墜落」による死亡者は8,851人(令和2年)で、同年の高齢者の交通事故死2,199人の約4倍にのぼり、医療機関から報告された高齢者転倒事故606件の約半数(299件)は住宅内で発生しています(消費者庁)。
介護保険を使うには要介護認定の申請が要ります。申請に対する処分は「申請のあった日から30日以内」が法定原則ですが(介護保険法第27条第11項)、実態は令和4年度下半期で申請から平均40.2日(中央値39.4日)かかっており、令和4年度実績では94.1%の保険者で30日超が常態化しています。窓口の場所を先に知っておくだけで、この待ち時間の入り口を早められます。
確認しておくこと④ 遺言(法務局で保管できる)
自筆の遺言書は、法務局で保管してもらう制度があります(2020年7月開始)。保管申請は累計122,212件(令和8年5月末時点)で、申請手数料は1件3,900円です(法務省民事局)。紛失や書き換えの心配がなくなること、相続開始後に家庭裁判所の検認が不要になることが利点です(法務省「自筆証書遺言書保管制度」)。
「うちは財産が少ないから揉めない」と考えがちですが、家庭裁判所の遺産分割事件(認容・調停成立)のうち遺産価額5,000万円以下が約76%を占めます(令和6年司法統計)。相続争いの多くは、いわゆる「普通の家庭」で起きています。
確認しておくこと⑤ きょうだいの合意(誰が何をするか)
介護も実家の処分も、最後は家族の合意の問題になります。誰が主に対応するのか、費用はどう分担するのか、実家をどうするのか。親が元気なうちに一度でも話しておくと、いざというときの選択が早くなります。
会社員の場合、介護休業は対象家族1人につき通算93日まで、3回を上限に分割して取得できます。雇用保険の介護休業給付金は「休業開始時賃金日額×支給日数×67%」が支給されます。育児・介護休業法上の「要介護状態」は負傷・疾病等により2週間以上常時介護を必要とする状態を指し、介護保険の要介護認定がなくても介護休業を取得できます。2025年4月1日施行の改正育児・介護休業法により、介護に直面した労働者への個別周知・意向確認と、40歳等の早期段階での介護休業制度等の情報提供が全企業に義務化されました(厚生労働省)。
費用の目安も共有しておくと話が具体的になります。介護費用の月額平均は9.0万円(在宅5.3万円・施設13.8万円)、住宅改修や介護用ベッド購入などの一時的な費用の平均は47.2万円、介護期間の平均は55.0か月(約4年7か月)で、4年を超えて介護した人は約4割です(生命保険文化センター2024年度調査)。
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参考:相続が始まってからの期限は短い
備えの必要性が分かりやすいので、相続開始後の期限も載せておきます。いずれも起点は「相続の開始があったことを知った日」等であり、実際にはこの期間内に葬儀・役所の手続き・遺産の把握も並行します。
| 手続き | 期限 | 出典 |
|---|---|---|
| 相続放棄・限定承認 | 自己のために相続の開始があったことを知った時から3か月以内に家庭裁判所に申述 | 裁判所 |
| 準確定申告(亡くなった人の所得税) | 相続の開始があったことを知った日の翌日から4か月以内 | 国税庁 No.2022 |
| 相続税の申告・納付 | 相続の開始があったことを知った日の翌日から10か月以内 | 国税庁 No.4205 |
| 相続登記 | 不動産を取得したことを知った日から3年以内(正当な理由なく怠ると10万円以下の過料) | 法務省 |
なお、相続税の課税割合は令和6年分で10.4%となり、昭和42年以降で初めて10%を超えました(死亡者約160.5万人のうち課税対象16.7万人。東京都は20.0%)。相続税の基礎控除は「3,000万円+600万円×法定相続人の数」です(国税庁)。
よくある質問
Q.お金の話を切り出すと、財産を狙っていると思われそうです。どう始めればいいですか?
A.金額を聞くのをやめて、「もしものときに困らないように、どこの金融機関を使っているかだけ教えてほしい」と範囲を絞るのが現実的です。実際、成年後見の申立て動機は「預貯金等の管理・解約」が最多で、終局事件の93.4%で挙げられています(令和7年)。困るのは金額が分からないことではなく、どこにあるか分からないことです。その事実を先に共有すると、目的が伝わりやすくなります。
Q.親が受診や制度の利用を嫌がります。
A.無理に説得する前に、家族だけで相談できる窓口があります。地域包括支援センターは市町村が設置主体で、高齢者の総合相談・権利擁護・介護予防の援助等を無料で行う中核機関です。全国5,487か所(ブランチ・支所を含めると7,374か所/令和7年4月末)にあり、離れて暮らす家族からの相談も受け付けています。本人を連れて行く前に、家族が状況を相談するところから始められます。
Q.任意後見と成年後見は何が違いますか?
A.任意後見は、本人が元気なうちに公正証書で受任者(将来支援してもらう人)を自分で指定しておく契約型の制度です。利用者は2,833人で、成年後見制度の利用者全体259,901人(令和7年12月末)の約1%にとどまります。判断力が下がってから家庭裁判所が選任する法定後見では、令和7年に新たに選任された成年後見人等のうち親族は16.4%で、83.6%は専門職などの親族以外でした。誰に任せるかを自分で決めておけるかどうかが、元気なうちに動く意味です。
Q.実家の名義が祖父母のままでした。どうすればいいですか?
A.2024年4月1日より前に相続した未登記の不動産も義務化の対象で、令和9年(2027年)3月31日までに登記が必要です。分け方が決まらない場合は、相続人が単独で法務局に申し出るだけで申請義務を履行したものとみなされる「相続人申告登記」が使えます(法務省)。まずは実家の所在地を管轄する法務局に相談してください。
Q.全部やる時間がありません。優先順位はありますか?
A.1つ選ぶなら、②の実家の名義確認です。期限(3年以内・経過措置は2027年3月31日まで)があり、過料の対象になり得るのはこれだけだからです。次に①のお金の置き場所。この2つが押さえられていれば、他は状況が動いてからでも間に合うことが多くなります。
まとめ:今日できるのは1つでいい
5つ全部を一度に話す必要はありません。実家の登記名義を法務局で確認する、親の住む地域の地域包括支援センターの電話番号を調べておく、取引金融機関だけ聞いておく。どれか1つでも、判断力が下がってからでは面倒になることを、いま片付けられます。何から手をつけるか迷う場合は、上の「親のこれからナビ」で現在地から整理してみてください。
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出典・参考
- 厚生労働省 認知症およびMCIの高齢者数と有病率の将来推計(2024年5月公表(2022年調査ベース))
- 最高裁判所 成年後見関係事件の概況(令和7年)(令和7年12月末)
- 東京家庭裁判所 成年後見人等の報酬額のめやす(平成25年(現行運用の目安))
- 全国銀行協会 金融取引の代理等に関する考え方(2021年2月)※銀行業界の団体による公表
- 法務省 相続登記の申請義務化Q&A(2024年4月施行)
- 法務省 相続人申告登記について(2024年4月開始)
- 法務省民事局 令和3年民法・不動産登記法改正のポイント(所有者不明土地の割合・発生原因)(令和6年調査(法務省 令和8年4月版))
- 法務省民事局 遺言書保管制度の利用状況(令和8年5月末)
- 法務省 自筆証書遺言書保管制度「01 遺言書保管制度とは?」(相続開始後の検認が不要)(2026年7月確認)
- 総務省統計局 令和5年住宅・土地統計調査(確報集計)(2023年(2024-09-25公表))
- 厚生労働省 地域包括ケアシステム(令和7年4月末)
- 総務省消防庁 令和7年版 救急・救助の現況(令和6年中(2026-01公表))
- 消費者庁 高齢者の転倒事故に関する参考資料(令和2年データ(2021-10公表))
- e-Gov法令検索 介護保険法(現行法(2026年時点))
- 厚生労働省 社会保障審議会介護保険部会(第115回)資料2(令和4年度下半期(2024-12-09資料))
- 厚生労働省・ハローワーク 介護休業給付リーフレット(現行制度(2024年度版))
- 厚生労働省 育児・介護休業法改正ポイントのご案内(2025年4月施行)
- 生命保険文化センター 2024年度生命保険に関する全国実態調査(2024年度(2025-01発行))
- 最高裁判所 令和6年司法統計年報(家事編)(令和6年)
- 国税庁 令和6年分相続税の申告事績の概要(令和6年分(2025-12-16公表))
- 国税庁 タックスアンサー No.4152 相続税の計算(2026年7月確認)
- 国税庁 タックスアンサー No.4205 相続税の申告と納税(2026年7月確認)
- 国税庁 タックスアンサー No.2022 納税者が死亡したときの確定申告(準確定申告)(2026年7月確認)
- 裁判所 相続の放棄の申述(2026年7月確認)
本記事は一般的な情報提供を目的としたものであり、個別の法的助言・税務相談ではありません。個別の判断が必要な場合は税理士・行政書士・弁護士等の専門家にご相談ください。